大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1226号 判決

控訴代理人は原審証人児玉義雄(第一回)の供述を援用した外はすべて原判決の事実に記載してあるとおりであるからこれを引用する。

三、理  由

先づ被控訴人の本案前の抗弁について判断するに、被控訴人(当時東京財務局長以下同様につき省略する)が控訴人に対し控訴人主張のような個人所得金額審査決定をなし控訴人がこれに対し訴願を経ることなく直ちに本訴を提起したことは控訴人の認めるところである。

そして控訴人が本訴を提起した当時(記録によれば昭和二十四年二月十五日であること明白である)施行中の改正前の所得税法第五十一条には、審査決定に不服のある者は「訴願をなし又は裁判所に出訴することができる」旨規定してある。被控訴代理人はこのように法律に於て訴願と訴訟との選択を認めている場合に於ても行政事件訴訟特例法第二条の解釈として苟も訴願が可能である以上先づ訴願を経べきである。即ち行政事件については、先づ行政庁自らの反省を促す機会の許される限りその機会を与えるべき必要上右規定が設けられた趣旨に鑑み仮に法文上訴願と訴訟とが選択的に許された場合に於ても同様であると主張するも、法文上訴願と訴訟とを選択的に許している場合は訴願と訴訟との孰れを択ぶかはその自由とする趣旨で、訴訟を択ぶ場合は訴願の手続を経ることを必要としないものと解すべく、行政事件訴訟特例法第二条はこのような明文によつて訴願前置を必要としないことを定めた場合に迄適用すべきものではないと考える。

よつて控訴人が本件審査決定に対して訴願を経ずに直ちに本訴を提起したとて何等不適法ではないから被控訴人の本案前の抗弁は理由がないものとして排斥する。

次に本案に入つて審査するに、控訴人が肩書地に居住し細田機械工業株式会社の株主で且代表取締役である事実、控訴人が控訴人主張の金額及び内訳の昭和二十二年度所得額の申告を鶴見税務署に対してしたところ、同税務署はこれに対して控訴人主張のような更正をしたので控訴人は更にこれを不服として被控訴人に審査を請求したのに対し、被控訴人は控訴人主張のような審査決定をなすに至つた事実、細田機械工業株式会社は資本金十九万七千円であつたのを控訴人主張の日時に百五十万円に増資したところ、控訴人はその差額に該当する株式数を全部自己又は他人名義で実質上はすべて控訴人個人が引受けその払込及び増資登記の手続がなされた事実、被控訴人は控訴人が右払込資金百三十万三千円を細田機械工業株式会社から給与せられたものと認定しこれを控訴人の所得額の内へ計上して本件審査決定をした事実は孰れも当事者間に争がない。

控訴人は右払込資金百三十万三千円を細田機械工業株式会社から給与を受けたものではなくて、右株金の払込を会社が控訴人に代つて立替えて支払つたもので、控訴人は会社に対し立替債務百三十万三千円を負担するから右百三十万三千円を控訴人が会社から給与せられたものとしてその所得に算入した本件審査決定は違法であると主張するところ、成立に争のない甲第一号証、甲第二号証、乙第四号証の一、二原本の存在並にその成立に争のない乙第一ないし第三号証、乙第五ないし第九号証、原審証人佐藤和雄、松井静郎、児玉義雄(第一、二回)当審証人吉沢忠兵衛の各供述(但し以下の認定に牴触する部分を除く)を併せて判断すると次の事実が存在したことが認められる。

即ち細田機械工業株式会社は事実上控訴人の主宰する同族会社であるところ、右増資に際し控訴人は右会社から同会社の経理課長児玉義雄を通じて昭和二十二年十二月二十五日小切手で金百三十万三千円の支払を受け、控訴人は右増資株の払込金として会社の取引銀行である横浜興信銀行鶴見支店へ振込んだ事実、経理課長児玉義雄は右金員の支出を会社の帳簿面にも控訴人に対する立替金として記載し、その後昭和二十三年三月十二日控訴人から右金員の返済もないのに帳簿上控訴人から返済があつた旨記載した事実尚児玉義雄はこれに見合うべき会社の架空の支出を計上して帳簿上の収支の辻褄を合せた事実、会社の帳簿上には右のような記載がなされている外控訴人が右百三十万三千円の債務を会社に対して負担するが如き帳簿上の記載は元より、控訴人から会社に対して債務負担の証憑となるべき証書、手形等の差入もなく、従て利息期限等についてこれを窺うに足る資料もない事実が存在する。

以上認定の事実からすれば、右増資株の払込資金百三十万三千円は控訴人に於て毫も返済する意思もなく、会社に於ても控訴人から返済を受ける意思もなく控訴人へ支給したものであり、これに関係した会社首脳部は以心伝心右事実を熟知の上帳簿上立替金名義を仮装して事実を糊塗せんとしたものと認めるのを相当とする。原審証人児玉義雄(第一回)当審証人吉沢忠兵衛の各供述中以上の認定に牴触する部分は当裁判所の採用し難いところ、その他控訴人の立証によるも以上の認定を覆して右金員が控訴人主張の如く立替金である事実を確認することは出来ない。

然らば控訴人が右会社の代表取締役であり、右金員が定期の給料、賞与でもない以上臨時の賞与に類する給与と認めるを相当とするから右金員を昭和二十二年度の控訴人の所得額に計上した本件審査決定には控訴人主張のような違法はない。

よつて当裁判所とその所見を一にして控訴人の本訴請求を排斥した原判決は洵に相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

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